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高知県安芸市には、豊かな海と山、伝統芸能である獅子舞、特産品であるゆずなど、地域の魅力がたくさんあります。しかし、そうした魅力や挑戦が点在し、互いにつながりきれていない、そんな実感から生まれたのが「安芸市地域共創プロジェクト」です。横のつながりを強め、行政がその挑戦を後押しすることで、一人ひとりがさらに挑戦できる環境をつくりたい。そんな思いのもと、2026年8月、農業・漁業・宿泊業・伝統文化・建築・広報など、異なる立場で安芸市に関わる8名のキーパーソンが集まりました。今回は、それぞれの現場で課題と向き合いながら、安芸市の未来を描くキーパーソンの姿をお届けします。
獅子舞が結ぶ、赤野の新しい暮らし方 有光新五さん(赤野獅子舞保存会)
赤野の獅子舞は600年続く伝統文化ですが、人口減少とコロナ禍で途絶えかけていました。「獅子舞がなくなる」という危機感から、有光さんはこれを復活させます。小学生が神輿を担ぎ、地域の公民館を借りるところから始まった取り組みの中で気づいたのは、何より大切なのは「人のコミュニティ」だということ。若者とともに、担い手がいなくなっていた地域の役割を一つひとつ引き受け、3年かけて赤野の20代20人が集まるコミュニティを形成しました。夏祭りにはその20人全員が手伝いに駆けつけ、夜通し語り合う関係も生まれています。県の制度も活用して地域外の窓口をつくり、奈良や東京など県外との交流も広げている有光さんが目指すのは、勉強だけでなく自然の中で遊び、感性を育てる「学校」づくりと、赤野の雇用創出です。
田舎の価値を、次の世代へ ― 畑山から始まる「生きる力」 小松圭子さん(有限会社はたやま夢楽 代表取締役社長)
愛媛県出身の小松さんは、事業で安芸市を訪れたことをきっかけに、新聞記者を経て、結婚を機に畑山へ移住しました。畑山で地鶏の飼育・加工・販売と宿泊業を営み、月に200人以上、年間では2,000人近くが訪れています。人口20人ほどの限界集落で16年暮らす中、断水や停電も経験しながら見つめてきたのは、田舎の価値が正しく評価される社会の実現です。「勉強がすべてではない」という小松さんの思いから、廃校の活用や自然を生かした学びの場づくりを模索。川の事故をきっかけに、安全に自然と関われる環境づくりにも力を入れ、大人も子どもも楽しめる地域を目指しています。
安芸市を「ゆずの町」へ 千光士尚史さん(千光士農園 代表)
ゆず農園を営む千光士さんの頭には、一年一作の経営不安、加速する人口減少、ゆず農家の疲弊という3つの「もやもや」が常にあります。従業員は増える一方で経営者である自分への依存度が高い組織体制、高齢化による耕作放棄地の増加にも危機感を抱いています。それでも安芸市を含む高知県東部は国内のゆず生産量の4分の1を担っており、この量だけは何としても維持したいという思いを胸に、目指すのは日本トップ10に入る柑橘農家になること。「安芸市といえばゆず」というブランドを築き、大手メーカーとの協業も視野に、安芸市に約350軒あるゆず農家が稼ぐことができ、認められ、褒められる仕組みをつくり、地域にお金が循環する基盤づくりに取り組んでいます。
生きる技術を、この土地から学ぶ 末廣佳帆理さん(安芸市集落支援員)
安芸市集落支援員として活動する傍ら、ゲストハウス運営にも携わる末廣さんは、日々の業務でデータ管理や日中の事務作業に追われ、フィールドに出ていないのが現状。高知県東部の知名度の低さも実感しています。末廣さん自身の経験から目指すのは、机上の勉強だけでなく職人のように「生きる技術」を身につけられる学校や、子どもが時間を忘れて夢中になれる「子ども村」づくりです。山や川のそばに隠れ家をつくったり遊んだりできる場所を思い描いています。東京で暮らしていた時、自分には災害時に必要な生きる技術がないことに気づいたといい、AIなどで業務効率化することでできる時間を地域や子どもとの交流にあて、子育ての大変さも実際に体験しながら、災害時にもお互いの技術を持ち寄って助け合える地域を目指しています。
安芸を、歴史と人でつなぐ街に 仙頭杏美さん(Hostel東風ノ家(Kochi-no-ya)代表)
安芸市出身の仙頭さんは、「顔の見えるプレイヤーが少ない」という課題意識から、自らプレイヤーとなりゲストハウス「Hostel東風ノ家(Kochi-no-ya)」を開業しました。宿泊業やサービス業の経済規模の小ささからくる雇用の不安定さ、老朽化した空き家や護岸工事に固められた川といった景観の課題、市外からでも通いたくなる教育の場の不足、こなすだけになりがちなイベントのあり方、弱い情報発信など、複数の課題に向き合っています。土居廓中をはじめとする歴史資源を生かし、安芸市を四国の京都のような「歴史の街」に育てたいと活動中です。観光を、農業や漁業、歴史文化、飲食業をつなぐ「編集産業」と捉え、移住したくなる、戻ってきたくなる地域を目指しています。
空き家という資源を、次の世代の風景へ 井上将太さん(株式会社井上建築 代表取締役)
安芸市出身で林業を学び、横浜での修業を経て建築会社「井上建築」を経営する井上さん。ウッドショックやコロナ禍による地場産業の経営難、10年でおよそ6割減った安芸市の子どもの出生数など、地域の担い手不足に強い危機感を持っています。ボランタリーなまちづくりからの脱却も必要だと考え、公的な支援のあり方も見直すべきだと訴えます。会社のビジョンに掲げるのは「高知県東部の風景をつくる」こと。高知県東部に推定6,000戸あるといわれる空き家のうち60戸の再生を目標に、すでに奈半利町では宿や文化財の再生にも取り組んでいます。事業承継が進む地域を目指し、経営者同士が学び合う経営塾や、行政と民間が両輪で地域を支える「まちづくり会社」構想も描いています。
安芸市の魅力を、正しく伝える広報の力 小島高明さん(株式会社Ojima production 代表)
安田町出身の小島さんは、地域との関わりが薄い環境で育ちましたが、今は「株式会社Ojima production」としてブランディング・広報の仕事で高知県東部と関わっています。高知県東部は広報が苦手で魅力が外に伝わっていないと感じ、安芸市の魅力を一言で伝える「わかりやすさ」の不足を課題と捉えています。安芸市のスーパーマーケットのSNSではフォロワー3.3万人を獲得するなど、広報で培った実績を地域産業や飲食店の広報にも生かし、過疎が進む地域で経済を豊かにしたいと考えています。自身がものづくりを志した頃、ロールモデルとなる人が身近にいなかった経験から、多様な人材が集まる教育環境を目指し、AIを脅威ではなく自然と共存するまちづくりの味方として活用したいと語っています。
海の恵みと危機感を、次の世代へ伝える 佐々木佳太さん(漁師)
福岡県出身の佐々木さんは、東京での会社員生活を経て安芸市に移住し、5年ほど漁師として活動してきました。魚の減少や燃料高騰という厳しい現実の中、「船を出したら赤字」という状況も経験しています。そんな経験から、「漁師たちで面白いことをやり、人に来てもらって食べてもらう」方向に活路を見出し、体験ツアーやイベントを企画。2026年5月には漁師が主役の祭りを開催し、大雨の中でも約2,000人の来客に繋げています。漁師が教える防災学習の場づくりにも取り組み、山も海も宿もすべてが揃って、漁師や農家が一体となって盛り上げる安芸市を目指しています。
思いと共感でつくる、これからの安芸市
立場も課題も違う8人のキーパーソンが、それぞれの現場でそれぞれの答えを探しています。安芸市地域共創プロジェクトは、こうした一人ひとりの挑戦がつながり合うことで、まち全体の力になっていくと考えています。この想いに共感してくださる方、一緒に安芸市に関わりたいという方との出会いを、私たちは求めています。
【安芸市地域共創プロジェクトについて】
主催:高知県安芸市
活動概要:農業・漁業・宿泊業・伝統文化・建築・広報など、異なる立場で安芸市に関わるキーパーソンが参加し、地域が抱える課題と、それぞれが描く未来像を共有するところからスタートした地域づくりの取り組みです。人口減少や担い手不足といった全国共通の課題を、SDGsの視点とも重ねながら、行政と民間が「思いと共感」を軸に連携し、立場を超えて地域の担い手同士がつながり、ともに安芸市の未来をつくっていくことを目指しています。活動内容は現在進行形で形づくられており、参加メンバーそれぞれの想いをもとに、今後具体的な取り組みを展開していく予定です。