新聞正文
神奈川県三浦市長井の定置網船上に横たわるメガマウスザメ(推定 全長5.7m/体重約1トン)
2025年7月8日早朝、神奈川県三浦市長井の漁業関係者から「定置網に見たことのない巨大なサメが入った」との連絡が入った。確認されたのは、世界的にも極めて珍しいメガマウスザメ。テレビ東京「ありえへん∞世界」でサメ博士として知られる宋 青松(そう・せいしょう)が現地へ向かい、約7時間にわたる調査解剖を実施した。採取した骨・皮膚・寄生虫などの標本は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共同で分析し、科学的記録として報告する予定である。
「見たことのない巨大なサメ」― 発見の経緯
7月8日早朝、三浦市長井の漁業関係者から一報が入った。送られてきた写真に写っていたのは、丸みを帯びた頭部と、大きく開いた特徴的な口を持つメガマウスザメだった。メガマウスザメは1976年にハワイで初めて発見された比較的新しい種で、確認例は世界でも約300例未満、日本国内では約30例ほどしか報告されていない。「地球上で最後に発見された大型脊椎動物の一つ」ともされる、まさに神秘の生物だ。
メガマウスザメ最大の特徴である、大きく開く口。名前の由来にもなっている
なぜ“謎多き”サメなのか
体が非常に柔らかく、すぐに死んでしまうほどデリケート。体長は約6メートルと大きく、水族館に搬入する機会もなかなか生まれない。記録数そのものが極めて少ないため、研究すること自体が非常に困難であり、その生態は今なお多くの謎に包まれている。
人と並ぶと、その巨大さが際立つ(推定 全長5.7m)
巨大な口を持つ“おとなしいサメ”
こんなに大きな口を持ちながら、実際は小型のエビやオキアミなどのプランクトンを主食とする非常に大人しいサメだ。プランクトン食のサメは世界でもジンベエザメ・ウバザメ・本種の3種類のみ。歯は非常に小さく、餌のサクラエビなどをとらえるには役立たないサイズで、代わりに顎を前に突き出しながら口を大きく開き、クジラのように海水ごと吸い込む構造ではないかと考えられている。吸い込んだ海水は、エラにある鰓葩(さいは)と呼ばれるフィルターでこし出し、餌だけを取り込む――ただし、その詳しい仕組みはまだよくわかっていない。
口の内側
白く滑らかな腹部と大きな胸ビレ
サメ博士・宋青松による7時間の調査解剖
漁港に到着すると、定置網船の上には推定 全長5.7メートル、体重約1トンのメガマウスザメが横たわっていた。個体は成熟したメスだった。研究を目的とした調査解剖を実施し、約7時間にわたり内臓・皮膚・寄生虫などの貴重な標本サンプルを採取した。骨格は異質なほど柔らかく家庭用包丁でも切り裂けたが、皮はかなりざらざらしている上にぶよぶよと分厚く、きれいに切り裂くのは難しかったという。
丸みを帯びた頭部と口元。本種ならではのシルエット
深海の光をとらえる、大きく澄んだ目
子どもたちも大興奮 ― 目の前に現れた“図鑑の生き物”
調査の途中には、地元小学校の子どもたちが見学に訪れた。テレビや図鑑でしか見たことのない生き物が目の前に現れた瞬間、子どもも大人も、そして20年漁を続けて初めて見たという漁業関係者までもが大興奮。皆で解剖中のメガマウスザメに見入っていた。
OISTと共同分析、生態解明へ
今回調査された個体は、メガマウスザメの生態に関する多くの謎を解明するために保存される。採取された骨・皮・寄生虫などは沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共同で分析し、科学的な記録としてまとめ、報告する予定だ。世界でも確認例の少ない希少なサメを詳しく調べることで、これまで謎に包まれてきたメガマウスザメの生態や生息環境の解明につながることが期待されている。
【調査者プロフィール】サメ博士・宋 青松(Seisho Song)
サメ博士・宋 青松(米国エッカード大学 環境学 学士)
米国エッカード大学(フロリダ州セントピーターズバーグ)環境学 学士。専門は生態学と骨格形態学で、サメの進化・多様性の解明、生態と適応戦略、骨格形態から読み解く機能と進化の関係などを研究している。CTスキャン解析や骨格標本の作製・形態分析、深海フィールド調査を通じて、漁業や環境保全に役立つ基礎研究にも取り組む。
テレビ東京系「ありえへん∞世界」「深海魚ハンター」などに多数出演するほか、アメリカ板鰓類学会をはじめとする国際会議での発表実績を持つ。国内では千葉県外房沖・静岡県駿河湾でのサメ釣り体験イベントや講演を開催し、骨格標本・あご骨などの剥製カスタム販売、研究コラムの連載など、研究と普及活動の両面で活動している。
本件に関するお問い合わせ
協力:沖縄科学技術大学院大学(OIST)ほか
https://samehakase.com/