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津南醸造での冬の仕込みの様子
津南醸造株式会社(TSUNAN SAKE BREWERY、新潟県中魚沼郡津南町、代表取締役社長:鈴木健吾)は、2026年9月29日、京都テルサ(京都市南区)で開催された関西醸友会 第15回講演会(令和8年度講演会、メインテーマ「シン・日本酒 〜伝統と革新が拓く次代の酒造り〜」)において、代表取締役社長の鈴木健吾が「シン・日本酒への挑戦 〜スマート醸造とサイエンスが拓く次代の酒造り〜」と題して講演しました。
講演では、食用米・魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸づくりで生成AIを活用してきた「スマート醸造」の歩みに加え、その先に開発を進める「超スマート醸造」を紹介しました。超スマート醸造は、日本酒の発酵を数式で表した機構モデルと、少ない実測値からモデルを補正するデータ同化の手法を組み合わせ、米と水と温度の条件からどのような酒ができるかを計算するものです。
講演概要
会合名
関西醸友会 第15回講演会(令和8年度講演会)
メインテーマ
シン・日本酒 〜伝統と革新が拓く次代の酒造り〜
開催日
2026年9月29日(火)
会場
京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70番地)
演題
シン・日本酒への挑戦 〜スマート醸造とサイエンスが拓く次代の酒造り〜
講演者
鈴木健吾(津南醸造株式会社 代表取締役社長)
関西醸友会は、関西を中心とする清酒醸造の技術者が集う会です。今回の講演会では、酒造好適米「山田錦」の歴史と課題、多様な原料による醸造、江戸時代の酒文化など、伝統と革新の両面から次代の酒造りを考える講演が行われました。
講演内容
- 門外漢が雪の蔵に立って見たもの
鈴木はもともと微細藻類の研究者で、2005年に株式会社ユーグレナを共同創業し、ミドリムシの食用屋外大量培養の実用化に取り組んできました。2019年に株主として津南醸造に参画し、2023年12月に代表取締役社長に就任しています。
蔵に入って最初に抱いたのは、畏敬と、それと同じだけの危機感でした。糖化と発酵を一つのタンクの中で同時に進める日本酒の「並行複発酵」は、世界の醸造技術の中でも際立って高度な仕組みです。杜氏と蔵人は、その複雑な発酵を比重(ボーメ)や品温、手触りから読み取り、日々の操作を調整しています。一方で、その判断の多くは個人の経験の中にあり、気候変動で原料米の性質は年ごとに変わり、担い手は減っています。鈴木は、その中で「各種条件が変わり続ける環境のもとで制御可能にする手段」がより必要とされているのではないかと考えました。
- 課題を数字で表現する:魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸
津南醸造は小さな蔵で、試験醸造を何十本も並行して行う余力はありません。試す回数を増やせないという制約が、データとモデルを活用する方向へ蔵を向かわせました。
旗艦銘柄の純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」は、酒造好適米ではなく食用米のコシヒカリを100%用いています(精米歩合50%)。食用米には、酒造りにとって三つの壁があります。
物理特性:粘りが強く、製麹のときに米粒がくっつき、酵素の弱い麹になりやすい
成分:タンパク質や脂質が多く、分解されたものが雑味や苦味になりやすい
溶けやすさ:醪の中で溶けにくく、糖化が遅れて発酵が滞るおそれがある
- スマート醸造:2023年の構築と、その後の進化
日本酒造りをサポートするスマート醸造の仕組みは2023年に構築しました。生成AIを蔵の意思決定の支援に組み込むもので、要は、AIそのものよりも、AIに参照させる知識の設計にあります。汎用の生成AIをそのまま使うと、ハルシネーションが生じる可能性が高くなります。そこで検索拡張生成(RAG)を組み合わせ、参照先を整理しました。
その後も、分光反射特性や、麹の質量分析による成分のデータなど、蔵独自のデータを加え続け、記録を検索するだけでなく考察ができる状態を目指しています。現場では、食用米でとりわけ神経を使う洗米・浸漬の工程で、浸漬時間を計測するツールを作って日々使っています。できあがった酒がどのような性質になったのか、なぜそうなったのかという酒質の考察にもAIを使っています。
- 超スマート醸造:土地を選ばない酒造りへ
現在開発を進めているのが、その先にある「超スマート醸造」です。日本国内に限らず、海外、さらには地球の外でも酒を造れるようにするための、発酵のシミュレーションをもとにした酒造りのデータベースです。
土台は、並行複発酵を数式(常微分方程式)で表した機構モデルで、骨格は布川彌太郎による古典的な定式化(1977年)に依っています。蒸米が溶ける、糖ができる、アルコールができる、香りの成分(香気エステル)ができて揮散する、という流れを追い、まばらな実測値からモデルの内部の状態と反応の速さを順次推定する「データ同化」(アンサンブルカルマンフィルタ)を組み合わせています。
代表コメント
津南醸造株式会社 代表取締役社長 鈴木健吾
「関西の酒造りを担ってこられた技術者の皆さまの前でお話しする機会をいただき、ありがとうございました。私たちが試した範囲で、AIが一人で出した工程がそのまま最良だったことはありません。
それでも経験知をフィードバックしてアップデートして構築するモデルは、再現性のあるデータを書き留め、次の土地、次の世代へ応用することにもつなげられることを期待しています。
日本の発酵技術の優れた部分が日本酒を軸に世界のウェルビーイングに役立つこと、そして人類が生活圏を広げていく中で宇宙もその例外ではなく、どこへ行こうとも、微生物による物質の変換という営みが、技術としてだけでなく文化として受け継がれていくよう努力を続けたいと考えています。」
今後の展開
津南醸造は、スマート醸造に蔵独自のデータを加え続けるとともに、超スマート醸造では甘口の酒を再現できるよう、残糖を扱う仕組みやレシピの要素をモデルに取り込む改良を進めます。あわせて、日本酒由のナノ粒子や酒粕の素材化といったアップサイクルの研究にも引き続き取り組みます。
津南醸造について
豪雪地にある津南醸造の酒蔵
津南醸造株式会社は、新潟県中魚沼郡津南町に本社を構える日本酒を生産する酒蔵で日本有数の豪雪地帯に位置し、標高2,000m級の山々から湧き出る天然水を仕込み水として活用しています。
「Brew for Future〜共生する未来を醸造する〜」をブランドコンセプトに、地元産の酒米「五百万石」を活用した伝統的な酒造りとともに、地元の食用米ブランドである「魚沼産コシヒカリ」を用いたテーブルライス日本酒の生産と販売を行っています。
津南醸造のWebページ: https://tsunan-sake.com/