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【研究の要旨とポイント】
長時間の事前調整を要しないスクリーン印刷液絡型参照電極を、ナトリウムイオン選択性電極、カリウムイオン選択性電極、布および高吸水性繊維からなる試料搬送層、腕時計型の無線計測装置と一体化したウェアラブルセンサを開発しました。
実際の建設現場での作業中に、約2時間45分にわたり、ナトリウムイオンとカリウムイオンのそれぞれの応答信号をリアルタイムで取得し、無線送信およびデータ保存ができることを確認しました。
本研究をさらに発展させることで、汗に含まれる成分に関する情報を、作業や運動を継続しながら取得するための基盤となることが期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学 創域理工学部 先端化学科の四反田 功准教授、同大学大学院 創域理工学研究科 先端化学専攻の藤澤 拓真氏(2026年度 修士課程2年)らの研究グループは、汗に含まれるナトリウムイオンおよびカリウムイオンに応答する信号を連続でモニタリングできるウェアラブルセンサを開発しました。
汗に含まれるナトリウムイオンやカリウムイオンを連続的に測定できるウェアラブルセンサは、暑熱環境における健康管理への応用が期待されています。しかし、従来のイオンセンサでは、測定の基準となる参照電極を安定させるために長時間の事前調整を必要とする場合があり、現場利用上の課題となっていました。本研究では、スクリーン印刷(*1)で作製した液絡型参照電極(*2)を、ナトリウムイオン選択性電極、カリウムイオン選択性電極、布および高吸水性繊維からなる試料搬送層、独自開発の腕時計型無線計測装置と一体化しました。
ナトリウムイオンセンサおよびカリウムイオンセンサの感度は、それぞれ48.3 mV/decade(*3)、46.4 mV/decadeで、液絡型参照電極の電位変化は、10 mM塩化ナトリウム水溶液中で3000秒間に約6 mVでした。従来型の参照電極で見られた長い初期過渡応答を示さず、長時間の事前調整を行わずに測定できることを確認しました。作製したセンサを実際の建設現場で作業員が装着した結果、約2時間45分にわたり、ナトリウムイオンとカリウムイオンそれぞれに応答する電位信号をリアルタイムで取得し、無線送信とデータ保存ができることが確認されました。本研究成果は、作業や運動を妨げずに生体由来の化学情報を取得するウェアラブル計測技術の実用化に向けた基盤となることが期待されます。
本研究成果は、2026年9月21日に国際学術誌「ACS Omega」にオンライン掲載されました。
図 スクリーン印刷で作製した液絡型参照電極((a)模式図、(b)写真)および腕時計型無線計測装置((c)模式図、(d)写真)
【研究の背景】
皮膚に直接装着できるウェアラブルセンサは、心拍数や呼吸数といったバイタルサインに加え、体液中の成分(バイオマーカー)も非侵襲的に測定できます。そのため、日常生活を妨げることなく、健康状態を継続的にモニタリングできます。体液の中でも汗は採取が容易で連続測定に適しており、汗に含まれるイオン濃度を測定することで、水分補給の状態の把握や熱中症対策に役立てることができます。
電位差測定を原理とするイオンセンサは、得られる電位がセンサの大きさに依存しないため、小型化に適しています。さらに、印刷技術で作製すれば、低コストでの大量生産が可能です。使い捨てにも適しているため、衛生面の課題にも対応しやすくなります。
しかし、イオンセンサを使う際には、測定の基準電位を与える安定した参照電極が不可欠です。従来の参照電極は、使い始めてから電位が安定するまでに長い時間がかかるため、事前調整が必要となり、これが実用化の障壁となっていました。
そこで本研究グループは、スクリーン印刷型液絡参照電極を、ナトリウムイオン選択性電極、カリウムイオン選択性電極、布および高吸水性繊維からなる試料搬送層、および腕時計型無線計測装置と一体化したウェアラブルセンサを開発しました。
【研究結果の詳細】
作製したデバイスについてベンチトップ評価を行ったところ、ナトリウムイオンセンサおよびカリウムイオンセンサの感度は、それぞれ48.3 mV/decade、46.4 mV/decadeでした。スクリーン印刷型参照電極は、長時間の事前調整なしで動作し、3000秒間のドリフトは約6 mVでした。一方、液絡層を設けずに作製した比較用の参照電極は、外部の塩化カリウム溶液濃度への依存性が著しく高く、電位も経時的に変動し続けました。これらの結果は、液絡層が電位の安定に重要な役割を果たしていることを示唆しています。
実地試験として、稼働中の建設現場でウェアラブルセンサを動作させ、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンそれぞれに応答する電位信号をリアルタイムで取得しました。これらの信号は、標準水溶液を用いて作成した検量線に基づいて、見かけの濃度に変換しました。作業員が通常の作業を続けている間、約2時間45分にわたって測定を行い、無線送信およびデータ保存できることを確認しました。
本研究の中心的成果は、新規電極材料の提案ではなく、スクリーン印刷型電極、試料搬送機構、無線計測回路を単一のデバイスに統合した点にあります。加えて、長時間の事前調整なしに動作できること、および実際の作業現場で動作可能であることを示した点も重要です。
本研究を主導した四反田准教授は、「本技術は、建設現場、製造現場、スポーツ、屋外活動などにおいて、汗に含まれるイオンに関する情報を作業や運動を中断せずに取得するための基盤となります。将来的には、発汗量や水分摂取量などの情報と組み合わせることで、暑熱環境における体調管理や水分補給支援への応用が期待されます」と、コメントしています。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(24K02819)の助成を受けて実施したものです。
【用語】
*1 スクリーン印刷
メッシュ状のスクリーン版を通して導電性インクなどを基板上に塗布し、電極パターンを形成する成膜法。大量生産に適し、低コストで再現性の高い平面型電極を作製できる。
*2 液絡型参照電極
液絡部(多孔質膜など)を介して内部電解質(塩化カリウム水溶液など)と試料溶液とを電気的に接触させる構造の参照電極。内部の塩化物イオン濃度が一定に保たれるため、電極が試料に直接触れるものに比べて電位が安定する。
*3 mV/decade
イオン選択性電極の感度を表す単位で、イオン活量(濃度)が10倍(1桁、1 decade)変化したときの電位の変化量(mV)を示す。
【論文情報】
雑誌名:
ACS Omega
論文タイトル:
Real-Time Monitoring with a Wristwatch-Type Sodium- and Potassium-Ion Sensor Using a Screen-Printed Liquid-Junction Reference
Electrode
著者:
Isao Shitanda, Takuma Fujisawa, Noya Loew, Ryo Shirai, Yuta Imade, Yuri Okamoto, Shinya Yanagita, Hikari Watanabe,
Masayuki Itagaki
DOI:
10.1021/acsomega.6c04240
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