株式会社ローランド・ベルガー(東京都港区、代表取締役:大橋 譲、以下「ローランド・ベルガー」)は、日本の上場企業CxO・経営企画責任者200人を対象に、生成AI時代における戦略実行の難しさについて「第5回 上場企業CxO・経営企画責任者への意識調査」を実施いたしました。 生成AIによって戦略を「描く」コストが劇的に下がった今、企業価値を分けるのは戦略を描く力ではなく、描いた戦略を実行し成果に変える力です。本シリーズでは、生成AI時代における「戦略実行」をテーマに、なぜ戦略は実行されないのか、着手・完遂できる組織は何が違うのかを、調査データから解き明かします。 第1回|経営課題の重心は「策定」から「実行」へ 第2回(本稿)|戦略実行を止めるのは「決められない組織」 第3回|鍵は「アジャイル組織」への移行 第4回|外部協力会社を「加速装置」として使いこなす なお、前回「第4回 上場企業CxO・経営企画責任者への意識調査」については、 こちら をご覧ください。 調査結果の主なポイントは3点です。 ① 意思決定権限・役割が明確なプロジェクトは全体の約4割にとどまる一方、明確に定義されている場合、完遂率は約3倍に高まる。 ② 現場に十分な権限が与えられていない場合、意思決定は停滞しやすく、完遂率も低下する。現場に権限が委譲されているプロジェクトでは、完遂率は13ポイント高い。 ③ 成否を分ける最大の要因は現場リーダーのリーダーシップである。リーダーシップの不在は失敗プロジェクトで約5倍多く、成功プロジェクトでは発揮割合が約1.3倍高い。 *本調査における好業績企業とは、本調査において、競合と比較した時の自社の売上成長率に対する認識を「競合より良い」と回答した企業、業績不振企業は「競合より悪い」と回答した企業を指します。 戦略の実行・完遂を阻む最大の要因は、「組織・体制」 戦略が実行・完遂されない要因は、必ずしも「戦略・計画の質」にとどまりません。本調査が示しているのは、問題の本質が、戦略の中身ではなく、組織構造や意思決定、役割分担、リーダーシップといった「実行の仕組み」にあるという点です。 第1回で示した通り、生成AIの普及後も戦略の着手率は半数程度にとどまっています。すなわち、実行を止めているのは戦略の出来ではなく、「誰が、どのように意思決定するのか」という構造の問題です。 ① 意思決定権限・役割が明確なプロジェクトは全体の約4割にとどまる一方、明確に定義されている場合、完遂率は約3倍に高まる。 多くの企業ではプロジェクトごとに権限や役割の明確さにばらつきがあり、全体の6割超では、ほとんど定義されていないのが実態です。 この「権限・役割の明確さ」は、戦略の完遂率と強く相関しています。実際、定義されていない場合は約8割のプロジェクトが完遂に至らない一方、定義されている場合は完遂率が約6割に達します。 これは、戦略の実行・完遂において、権限と責任の設計が決定的に重要であることを示しています。戦略が動かない要因は、その内容ではなく、「誰が意思決定し、誰が責任を負うのか」が明確でないという構造そのものにあります。 ② 現場に十分な権限が与えられていない場合、意思決定は停滞しやすく、完遂率も低下する。現場に権限が委譲されているプロジェクトでは、完遂率は13ポイント高い。 意思決定に時間を要することによるプロジェクトの遅延・停滞は、全体の8割超が経験しています。その主因として浮かび上がったのが「現場への権限移譲不足」です。 現場への権限の有無は実行成果に直結します。十分な権限が与えられている場合、完遂率は与えられていない場合に比べ約1.5倍に高まります。 一方で、着手率の改善は約1.2倍にとどまり、現場の意思決定だけでは着手は進まないことが示されています。 また、現場が自律的に判断できる権限を有しているかどうかは、企業の競争力にも影響します。 実際、好業績企業では「現場への権限移譲がされている」が「されていない」を約1.2倍上回る一方、業績不振企業では逆に半分程度にとどまっています。 ③ 成否を分ける最大の要因は現場リーダーのリーダーシップである。リーダーシップの不在は失敗プロジェクトで約5倍多く、成功プロジェクトでは発揮割合が約1.3倍高い。 プロジェクトの成否を最も大きく左右するのは、現場リーダーのリーダーシップです。リーダーシップの不在は、成功プロジェクトでは2%にとどまる一方、失敗プロジェクトでは約1割に上ります。また、成功と失敗の差が最も大きく表れるのは現場リーダーであり、その差は10ポイントに達します。 戦略実行において現場リーダーは、経営の意図を現場に翻訳し、現場の実態を経営に接続し、部門間の利害を調整する“結節点”の役割を担います