子どもを虐待するかもしれない──そんな恐怖を抱えたことがある母親は77%。制御できないイライラ感を経験した母親は94.4%。これは特別な家庭の話ではありません。産後うつの診断歴もなく、婚姻関係も続いている「ごく普通の親」から報告されている数値です。 一般社団法人乳幼児子育てサポート協会は、2016年から7年間にわたり4回の子育て実態調査を実施。2023年に実施した最大規模調査(有効回答4,400名)の結果をまとめた「産後うつ・虐待予防のための実態調査 政策提言白書 2016–2023」を2026年6月に発行しました。7年間、母親たちの苦悩は改善していません。 ■ 調査が示す主要データ 【94.4%】制御できないイライラ感を経験した母親(2023年調査) 全年度共通で「産後2〜4ヶ月」にピーク。里帰りが終わり核家族に戻り、大人との接触が激減する時期と一致します。 【77.0%】「虐待するかもしれない」という恐怖感を経験した母親 2019年調査(84%)以来、一貫して高水準。最多時期は2歳代(イヤイヤ期:17.1%)で、産後初期だけでなく幼児期を通じたリスクが存在します。 【7年間】改善の兆しが見られない(2016→2023年) 孤独感・イライラ感・虐待恐怖感のすべてが、2016年の初回調査から数値の改善なし。少子化対策に予算が投じられる一方、子育て当事者の実態は変わっていません。 【46.7%】公的相談窓口を使わない理由が「相談するほどのことではない」 深刻な苦悩を抱えながらも「自分は大丈夫」と自己過小評価し、支援にたどり着けない構造が7年間固定化しています。 ■ なぜ7年間変わらないのか──3つの構造的問題 ① 産前教育に国の指針がない 母子保健法は「知識の普及に努める」と定めるのみ。両親学級の内容・回数・質について国の指針は一切存在せず、すべて自治体まかせになっています。感情調整スキルが届かないまま産後を迎える親が後を絶ちません。 ② 支援の「閾値問題」 「相談するほどでない」(46.7%)という自己過小評価が最大の壁。公的支援は存在するが、苦しんでいる当事者が「自分が対象」と思えない構造が固定しています。 ③ 夫婦の負担の非対称性 母親の孤独感(89.9%)は父親(36.6%)の2.5倍。「もっと協力してほしい」と感じた母親92.3%に対し、父親の77.2%は「そう感じたことはない」と回答。認識の乖離が深刻です。 ■ 白書が求める政策提言6:産前の両親学級に、国のコアカリキュラム指針を 【現状の問題】 産前教室参加率は78.1%と高い。しかし「内容を覚えていない」が30.4%、役立った内容の67%が「赤ちゃんのお世話の実技」のみ。感情調整・産後のホルモン変化・夫婦の役割分担という最も必要な内容が届いていません。 子どもを叩いたり怒鳴ったりした主な理由は「感情的になった」(36.1%)であり、しつけ目的はわずか7%。暴力はしつけではなく、追い詰められた感情の爆発として起きています。この課題は2019年調査から5年間、繰り返し指摘されてきました。 【求める具体的な国の対応】 ① 内容の標準化 こども家庭庁が両親学級の「最低限盛り込むべき内容」を定めたコアカリキュラム指針を策定する。 ② 必須3項目の明示 ・産後のホルモン変化と精神的実態のリアルな情報 ・感情調整スキル(アンガーマネジメント・タイムアウト法など) ・夫婦の役割分担と産後のコミュニケーション ③ 回数の基準設定 現在、回数・時間に国の基準なし。母子健康手帳交付時に「最低2回(妊娠中期・後期各1回)夫婦で参加」を努力義務として明示する。 ④ 担当者の質の担保 両親学級担当者に、傾聴・共感スキルを含む標準研修を義務化する。 産前に正しい知識と感情調整スキルが届けば、産後の苦悩の一部は予防できます。7年間のデータはそれを示しています。 ■ 本白書について 調査期間:2023年6月16日〜30日 有効回答数:4,400名(女性4,052名・男性348名) 調査対象:未就学児をお持ちの男女 調査方法:インターネットによる告知と回答 累計調査回数:4回(2016年・2019年・2021年・2023年) 累計回答者数:6,394名 白書はこちら d46558-6-5725179af0358079b8497036d02ce8d8.pdf ■ 一般社団法人 乳幼児子育てサポート協会について 設立:2013年(任意団体)/2015年 法人化 ミッション:産後うつを未然に防ぎ、親が安心して子育てできる社会を作る 主な活動:乳幼児子育てインストラクター育成(全国370名)/子育て講座・イベント開催(年間10,800組以上)/子育て実態調査の実施・政策提言 政策提言実績:糸島市議会での調査