新聞正文
大谷大学(所在:京都市北区 学長:木越 康)は、このたび地域連携活動の一環として取り組んでいる「モビリティデザインプロジェクト」(社会学部コミュニティデザイン学科・野村 実 准教授)において、2026年10月3日(土)、京都府京丹後市の全域を舞台に京丹後市民や京丹後青年会議所の方々による公共交通体験型イベント「モビリティロゲイニング」を開催します。学生が考案した、多様な交通手段を活用しながら、エリア内に設置されたチェックポイントをできるだけ多くまわり、ポイントを競い合う野外活動ゲームです。ゲームの得点に応じた景品として、地元の協賛企業から提供いただく特産品や宿泊券等を準備しています。
本プロジェクトは、高齢化や過疎地域のクルマ社会に伴う移動手段の課題を明らかにし、自家用車への過度な依存を問い直しながら、持続可能な地域交通のあり方を地域全体で考えていくことを目的としています。大学周辺での取り組みから始まり、3年間で自治体や地域の多様な関係者を巻き込みながら、京都府京丹後市や兵庫県丹波篠山市の全域規模へと広がっています。
本件のポイント:モビリティデザインプロジェクトが3年間で実現した、3つの「乗る」
①地域の人が乗る:デマンドバス利用者が約3.5倍。学生が企画・運営する乗車体験会を2年間で6回。丹波篠山市のデマンドバス利用者は運行開始当初の約3.5倍に増え、2026年3月に過去最多を更新。 ②地域の担い手が乗る:交通事業者、自治体、まちづくり協議会、自治会、青年会議所、IT企業。数者で始まった取り組みに、いま市内6社・市外1社が関わる。
③まちが乗る: 開催規模が市全域へ。大学周辺の一角から始まったモビロゲが、京丹後市の公共交通施策の一翼として位置づけられ、今年は市全域が舞台に。
モビリティロゲイニングとは・・・
モビリティロゲイニング(通称モビロゲ)は、チェックポイントを回って得点を競うスポーツ「ロゲイニング」をベースに、大谷大学の学生(野村実研究室)が考案した野外ゲームです。モビロゲでは自家用車を使わず、公共交通と徒歩でチェックポイントをめぐります。公共交通をうまく駆使するとボーナスポイントがもらえるなど、ゲームを楽しみながら自然にバスや鉄道の使い方を体験できるのが特徴です。また、公共交通を使ってまちを巡ることで、普段の車移動では気づかないような地域の魅力を再発見することができます。
地方では車移動が中心で、利用者の減少した公共交通は減便や廃止になってしまうかもしれないという課題があります。このイベントは「まずは楽しんで乗ってもらう」ことをテーマにしており、住民の方に公共交通の価値を再発見してもらい、地域の未来の交通について考えてもらう"きっかけ"を作ることが最大の目的です。
背景:地方が抱える構造的な"移動格差"
車社会の地方部では、人口減少と高齢化が公共交通の縮小を招き、それがさらに自家用車依存を強めるという悪循環が進んでいます。
京都府京丹後市では、平成2年からの30年間で人口が18,225人(26.4%)減少し、令和4年度には5万人を割り込みました。通勤・通学や買い物、通院の8割以上が自家用車に頼る一方、「鉄道をほとんど利用しない」と答えた市民は60%、「バスをほとんど利用しない」は73%にのぼります。バス事業者では50代後半以上の運転士が約5割を占め、担い手不足も深刻です。
同じく野村実研究室がフィールドとする兵庫県丹波篠山市(人口約38,600人、高齢化率36.7%)でも構図は同じです。65歳以上の自動車分担率は91.4%(※出典:京丹後市地域公共交通計画/丹波篠山市地域公共交通計画)に達する一方、公共交通の分担率はわずか0.4%。2024年よりAIデマンドバス(現在の愛称は「のり~な」)を導入するなど制度面の整備は進むものの、「乗り方が分からない」「乗継割引を知らない」といった利用方法の周知や、住民の行動変容を促すモビリティ・マネジメント(MM)の担い手不足が新たな課題として浮かび上がっていました。
大谷大学が仕掛ける「地域共創型MM」― 自治体・地域・大学の三者連携モデル
従来のMMは、行動変容の手法や施策効果の検証が中心で、実施主体は自治体が担うことが前提とされてきました。しかし担当職員の負担や人材不足を踏まえると、行政だけで仕組みを構築し拡大していくことに限界があります。
野村実研究室が提案するのは、MMの"実施主体そのもの"を分析対象として据え、自治体の業務を地域組織・大学とで分散する「地域共創型MM」です。
•自治体=制度設計(乗継割引の導入)、参加インセンティブ(回数券)の提供、事業者調整 •地域組織(まちづくり協議会・自治会)=近隣住民への参加の呼びかけ、募集窓口 •大学=体験プログラムとふりかえりワークショップの企画・運営
行政から住民への一方向の広報が「伝わらない」「聞いていない」という声に阻まれてきた中、まちづくり協議会や自治会、地域の企業などの多様な関係主体と連携し、行政と住民の間を"翻訳"する役割を大学と地域が担う仕組みです。
積み重ねてきた実践① 丹波篠山市 ― 「乗継体験会」で当事者経験をつくる
丹波篠山市では、鉄道駅・バス営業所という主要2拠点での乗継割引(500円→200円)という制度を軸とし、2024年9月の路線バス乗車体験会を皮切りに、以下のように体験会を積み重ねてきました。
•2024年9月 :路線バス乗車体験会 •2024年10月:デマンドバス乗車体験会(本格導入に先駆けて実施) •2025年9月 :デマンドバスの新規利用者獲得のための乗車体験会 •2025年11月:デマンドバス⇄路線バスの乗継体験会(「バスとの乗継方法を知りたい」という参加者の声を受けて企画)
•2026年4月 :東部・福住地区での実績をもとに、新たに運行エリアが拡大した 市南西部・今田地区でのMM実施を決定 •2026年8月 :今田地区・休場自治会と連携し、役員向け→一般住民向けと段階的に体験会を実施
この積み重ねの結果、デマンドバス利用者数は運行開始当初の約3.5倍まで増加し、現在では月に700人以上の利用者を獲得。乗継割引の周知は路線バス利用者数の増加にもつながりました。「乗継拠点」が実際の降車場所トップ2になるなど、制度としての乗継割引が実際の行動として根づき始めています。福住地区まちづくり協議会からは「村の中で広めたい」「乗り継ぎや割引を知らない人もいるので周知方法も考えていく」という声も上がり、住民自身が主体的に周知を担おうとする意識の変化も生まれています。
積み重ねてきた実践② 京丹後市 ― 公共交通改革の一翼を担う"ゲーム型MM"
もう一つのフィールドである京丹後市は、実は全国的にも知られる公共交通施策の先進地です。同市は2006年から運賃を大人200円均一とする「上限200円バス」を導入し、2007年~2012年で乗車人員2.3倍、運賃収入30%増加まで伸ばした実績を持ちます。さらに交通空白地では、地元NPOがウーバー(Uber)提供のシステムを活用した自家用有償運送「ささえ合い交通」を全国に先駆けて運営するなど、運賃政策・共助交通・ガバナンス(地域公共交通会議)を重ねた"多層的アプローチ"でまちの足を支えてきました。
野村実研究室は、この多層構造のうち「住民に公共交通を知ってもらい、体験してもらう」認知・体験層を担うパートナーとして、2024年から市と協働してきました。
•2024年8月:卓上ゲーム「京丹後市版 交通すごろく」の第1弾ワークショップを開催。 学生による調査報告に続き、市議会議員も交えてゲームを実施し、政策決定者への周知の場に。 •2024年10月:「モビリティロゲイニング@京丹後」を初開催。 京丹後青年会議所などとも連携しながら実施しました。 •2025年〜:高大連携企画「若者交通会議@京丹後」を京都府立丹後緑風高校網野学舎と共同実施するなど、対象を広げて展開。若者の意見が交通政策に反映される仕組みの構築に挑戦中。
参加者からは「これまで公共交通を知らなかったため使わなかった。今後は利用していきたい」「バスの待ち時間に、車では行ったことのなかった地元のスポットに行くことができた」といった声が寄せられ、NHK京都放送局「京いちにち」でも取り上げられました。
そして今回 ― 「モビリティロゲイニング2026@京丹後」、市全域で開催
今回のモビリティロゲイニングは、2026年10月3日(土)、京丹後市の全域を舞台に開催します。市内各所に設置されたチェックポイントを、AIオンデマンド交通「mobi(モビ)」や「ささえ合い交通」、京都丹後鉄道、丹海バスなどを乗り継ぎながら制限時間内にできるだけ多く巡り、獲得点数を競います。より多くの種類の移動手段を使うほどボーナス点が加算される仕組みで、新しいモビリティを初めて利用する方でも、学生スタッフの同行のもと安心して参加できます。京丹後市民に限らずどなたでも参加でき、自家用車からでは気づけない街の風景や地域の魅力を再発見する機会にもなります。
丹波篠山市での「体験を通じた行動変容」、京丹後市での「まちの公共交通改革を支えるゲーム型MM」。大谷大学が3年間かけて積み重ねてきた地域共創型MMの実践は、今回のイベントでさらにスケールし、次のフェーズへと進みます。
昨年のモビリティロゲイニング実施の様子
■開催概要
名称 :モビリティロゲイニング2026@京丹後
日程 :2026年10月3日(土)
時間 :10:30-16:30
会場 :京丹後市役所本庁舎(峰山)
参加費 :無料(申込優先制)
申込方法:https://forms.gle/g7BChiC8xxKgxY5N6
広がる展開 ― 全国モデルとしての応用可能性
丹波篠山市の「制度×体験会」、京丹後市の「多層施策×ゲーム型MM」――
アプローチの形は異なりますが、いずれも自治体だけでは行き届かない"周知と体験づくり"を大学と地域が肩代わりする点は共通しています。この「地域共創型MM」は、次のようなモデルとして他地域にも展開しうると考えています。
1.人材不足に直面する地方自治体でのMM実施体制として応用可能 2.デマンド交通やライドシェアなど新たな交通サービスの利用促進にも展開可能 3.地域条件に応じて調整可能なスキームとして、他地域への展開が可能
実際に、丹波篠山市内では今田・休場地区への展開に加えて、滋賀県湖南市など地理的条件の異なる地域への応用も検討が進んでいます。市役所からは「自治体・地域・大学の三者ともにメリットがある」との評価も得られており、行政負担の軽減と利用促進の両立という手応えをつかみつつあります。
※(写真左)野村実研究室が実施した、高大連携企画「若者交通会議@京丹後」の様子。 京都府立丹後緑風高校網野学舎の探究学習コミュニティゼミとの連携企画。 峰山高校なども含め、地元の高校生と一緒に「mobi」の利便性を体験し、公共交通を考えるワークショップを開催。 丹後万博での啓発活動も実施。
※(写真右)学生考案「京丹後市版 交通すごろく」の様子。 モビリティを効果的に使う方法を考える「交通すごろく」を開発。 従来の地域公共交通に加え、自家用車も含めた全ての移動手段を組み合わせてゴールを目指し、 「モビリティミックス」の重要性を楽しみながら学ぶことができます。
■大谷大学の地域連携について
大谷大学では「地域連携室(コミュ・ラボ)」を設置し、伝統いきづく住民力と学生の協働で、過疎地域の活性化、子育て支援、コミュニティラジオなどでの情報発信、環境に配慮した祭りの実施協力などの地域連携活動に取り組んでいます。
大谷大学 地域連携: https://www.otani.ac.jp/renkei/index.html
■大谷大学 概要
大谷大学は、1665(寛文5)年の江戸時代、京都・東六条に創設された東本願寺の学寮をその前身としています。その後、いくたびかの変遷を経て、1901(明治34)年、近代的な大学として東京・巣鴨の地に開学。1913(大正2)年、現在の地に移転開設しました。
親鸞の仏教精神に基づき、"人材"ではなく"人物"の育成を目標とする学び「人間学」を教育・研究の根幹とし、広く一般社会へ開かれた大学として確かな歩みを続けています。2021(令和3)年には、近代化120周年を迎えました。